株式会社アクセル

株式会社アクセル

営業グループ マネージャー
品部 仁志

主事業のLSIの営業活動と共に、同社のソフトウェアIP、ミドルウェア製品のエバンジェリスト的な役割で、日々活動中。

ミドルウェアのデモアプリ開発の予定が、気がつけばゲームを1本作ることに

最初にアクセルさんの業務についてお話いただけますでしょうか。

品部 主事業としては半導体のメーカー、LSIを設計・開発・販売する会社です。メインは、遊技機向けのグラフィックLSIを作っていて、そこが売り上げの大半を占めています。それ以外には、産業組み込み機器向け、例えば工場の設備や計測機器など、どちらかというとBtoB向けの機器に使われるグラフィックLSIを中心に販売しています。

それでは、アクセルさんではUnityをどのように使われているのでしょうか。

品部 今回の出展にも絡むんですけど、2年くらい前からソフトウェアIPとして「H2MD」というムービー再生コーデックミドルウェアを提供しています。その「H2MD」をUnity向けにカスタマイズした「H2MD for Unity」と、つい先日発表したサウンドのミドルウェア「C-FA」、それをあわせて、アクセルのソフトIP、ミドルウェアを合わせて「AXIP」と称して提供をしていく予定です。

ミドルウェア提供をスタートさせた経緯としては、弊社内にアルゴリズムチームという圧縮伸長技術や要素技術を中心に研究開発をしているチームがあります。そのチームの知見を、まずはムービーコーデック・ミドルウェアという形で提供し始めた、という流れがあります。
その後、ムービーミドルウェア「H2MD」「H2MD for Unity」に合わせてサウンドミドルウェア「C-FA」の提供を検討する中で、それらを組み合わせたデモアプリを作ろうという話が社内で挙がりました。そしてデモアプリ向けのグラフィック制作の協力会社さんを探す中で、以前からお付き合いがあった株式会社テトラさんから、「せっかくだったら共同で一本スマートフォンアプリを作りませんか?」というご提案を頂き、普通のソーシャルゲームをやろうという話になったんですね。それが『夢幻のラビリズ』というタイトルで、今まさに開発が佳境というところです。

アプリをリリースされるのは今回が初めて?

品部 はじめてですね。開発体制としては、クライアントアプリのエンジニアが1名、サーバーサイドエンジニアが1名というミニマムの体制でやっています。正直、Unityのおかげでこの人員規模でも効率的に開発が進められています(笑)
アプリ内のグラフィック制作は全てテトラさんにお願いしていますが、やはりゲーム内におけるグラフィックが占める割合は相当なものなので、2D / 3D関わらず、かなりご協力頂いていると感じています。

Unite 2017 Tokyoでは、そのあたりのお話を……

品部 はい。ゲームジャンルはダンジョンRPGの要素を中心に、企画側からの依頼でコスプレっぽい着替えの要素も入っています。5月8日までにはだいぶ仕上がっていると思うので、実際のゲーム開発、ゲームサーバー開発の苦労話や自社のミドルウェア(編集注:H2MD / C-FA)をこういった所に使ったら効果的、効率的でした、といった内容をお話ししたいと考えています。
また、全くアプリ配信やゲーム運営をやったことが無い会社がゼロから立ち上げているというところもあり、そういう面でも来場頂ける方には参考になればと思います。

遊技機向けの開発ノウハウから生まれた音声・映像ミドルウェア

まずはH2MDについてお伺いしていきます。もともとは「ブラウザ向け」のプロダクトということですが。

品部 最初に出したのはWeb向け、HTML5向けで、ちょうど2年半前くらいにiPhoneブラウザの中でインライン再生ができなかった時代があって、それに対応しようという狙いがありました。あと、弊社のLSIを搭載した遊技機では、アルファ動画……つまり透過の動画を重ねて演出を作るやり方が一般的な開発手法だったので、そういった体験をWebでもできるものとして提供を開始しました。ツール・ライブラリ含めて全て自社で開発しているので、それをネイティブのライブラリにする流れの中でUnityプラットフォームに乗せて、iOS、Android、Mac、Windowsに対応しました。それが「H2MD for Unity」です。

既存の市場として、すでに音声・動画関連のミドルウェアは存在しています。その中での差別化はどのようにお考えでしょうか。

品部 H2MDに関してはWebでも使えるっていうのが一番大きいですね。Unityで開発したスマートフォンゲームだと、起動時にオンライン接続して、お知らせ画面をHTMLで組まれる方法が多いと伺っています。そのHTML内でも動画が使えるという強みもあると思います。
その他に、アプリ内でインターネットから動画をダウンロードしてムービーのパーツとしても利用できますし、「H2MD for Unity」はインディーズ向けライセンスや、無償評価版も用意していますので、手軽に使えて試せるというのも強みだと思っています。あとはゲームだけでは無くて、ARアプリでのキャラ再生や、VRの全天球動画再生といった案件でもお話しを頂く事もあります。

続いて、4月25日に発表された、サウンドミドルウェアのC-FAについてお伺いしていきます。

品部 コアコンセプトは、「汎用音声コーデックの音質で再生負荷を半分にしよう」です。ミドルウェアに同梱されているPlayer APIを利用すると、シークやループなども非常に簡単に、かつ正確にできるようになっています。Androidでタップしたときの発音遅延を無くすというのも、開発の大きな目的でした。もちろん、「H2MD for Unity」と同じく、iOS、Android、Mac、Windowsのすべてに対応しています。

ゲーム内ではどのように使用されているのでしょうか。

品部 複数のサウンドの同時再生を今回の『夢幻のラビリズ』では入れていて、ゲームの進行に合わせて音を変化させています。具体的には、複数の音声を同時に再生しながらボリュームを変える様なことをやっています。例えば、デフォルトだと普通の音が流れているんですが、走ると音のリズムが変わるんですね。また、攻撃するとリズムが速くなったりというのが、動的に変わっていきます。具体的には、ゲーム中のあるシーンでは8個の音声を同時に再生しながら、ゲームの進行に合わせてボリュームを変えているんです。Unityの標準機能だと8つの音の同期再生はやりにくいんですけど、それを完全に同期して再生しているのが大きな特徴です。

これは最大でいくつまで重ねられるのでしょうか?

品部 『夢幻のラビリズ』内ではBGMに8曲、それにSEとボイスも加えると40近い数のサウンドを同時に再生しています。iPhone5Sで8曲を同時再生してもCPUは8%程度しか使用しないことが確認出来ており、実際に、『夢幻のラビリズ』ではBGMを8曲重ねたうえに、SEを30個くらい再生していますが、それでもなめらかに動いています。Unity標準のVorbisを使うと、BGMの8曲だけで21%近いCPU負荷になるため、C-FAの効果は大きいと考えています。
さらに、レイテンシーが低い、ということもポイントです。標準の音声コーデック並みの圧縮率で低負荷再生を実現できます。

複数の曲を重ねて使える、という「C-FA」ですが、例えばこういう風に使うと面白んじゃないか、みたいな提案はありますか?

品部 例えば、ギターとかピアノ、バイオリンを3つ録音しておいて、ユーザーが選んだキャラクターによって流す音を変えるという表現も可能になってきます。通常の作り方だと同じ曲を全キャラクターで流用すると思うんですけど、それを1トラックだけ変えて、キャラによってバリエーションを作ったりできる、というのは開発される方とっても表現の幅が広がって良いのでは無いかと思っています。

『夢幻のラビリズ』で見えるミドルウェアの使いどころ

夢幻のラビリズでは、「H2MD for Unity」、「C-FA」をかなり使われているわけですね。

品部 はい、音は全部弊社の「C-FA」で再生していて、恐縮ながらUnityのサウンド再生機能は使っていません。
また、画面内のエフェクトの一部が実は動画になっていて、そういった動画エフェクトは全部H2MDを使っています。あとは、アイテムを使うときに光るアイコンなんかもそうです。3Dパーツでこういうアイコンボタンを作ってしまうと、すごい階層が入り組んじゃって……なかなかデザインの変更が気軽にしづらいところですが、ここも動画ファイルを差し替えれば切り替えられるので、非常に省力化になりました。
UnityはPrefabをネストできないと思うので、UIの要素の一つにパーティクルなどを置こうとしたら階層が深くなってしまい、しかもネストできないため、書き換えても、もう一回Prefabを入れなおさないといけなくなります。
ところが、H2MDを使うとRawImageというオブジェクトを置いて、そこにH2MDファイルをアタッチすればいいので、デザイナーさんが動画を差し替えるだけでもUIが書き換わる。つまり、差し替えがすごく簡単でアップデートもしやすいんですね。素材の管理もしやすいかなと思います。
それから、Unityでパーティクルを使おうとするとScreenSpaceをカメラにしないといけない。そうするとUIの前後関係がちょっとややこしいことになるので、オーバーレイでパーティクルを使いたいっていうときにそのままRawImageを使った方がいいかなと。

動画ファイルの扱いですと、再生時の負荷はどのくらいなのでしょうか。

品部 どちらかというと、CPU負荷を下げるように作っているので、圧縮率というよりもCPU負荷を下げるという意識が強いですね。
いわゆるH.264などの汎用コーデックをCPUデコードするのに比べると、アルゴリズムはすごくシンプルに作ってあるので、再生のCPU負荷は低い想定です。
まだゲーム内では実装には至っていないですが、お知らせ画面のイベント告知にも動画が部分的にパーツとして流せるので、その辺りの実装も今後検討していこうと思っています。

『夢幻のラビリズ』と、自社ミドルウェア群を出展予定

ブース出展もされる予定ですが、どのような内容になりそうでしょうか。

品部 まずは『夢幻のラビリズ』の体験展示です。ローンチスケジュールとしては、オープンベータが5月末目標、リリースは今夏の早い時期を目標にしていますので、Unite 2017 Tokyoでは実際にゲームを体験できるブースを出展しようと思っています。あとは、「H2MD for Unity」と「C-FA」のミドルウェアの展示を行う予定です。

Unite 2017 TokyoにはUnityを使用されている方がたくさん来場されると思いますが、「ここを見てほしい」というところは?

品部 「C-FA」については、実際のゲームの中で動的にサウンドを再生制御しているところや、Androidの端末でも低遅延で再生できるというところを見てほしいですね。それとH2MDでUIがリッチになるところでしょうか。具体的な開発を進める中で、そこで一度でもつまずいたことがあるエンジニア・デザイナーさんには、すごく響くと思います。
期間中は、開発に関わったエンジニアもブースにいますので、聞きたいことがあればぜひ気軽にブースに来ていただければと思います。

あわせて、本作を共同開発されているテトラさんも講演をされますよね。

品部 はい。『夢幻のラビリズ』のCG制作ワークフローの話をテトラさんが発表されると思うので、弊社側では実際にプログラミング、ゲーム開発の裏話的な感じでセッションを行う予定です。
ゲーム開発の作業分担としては、企画・シナリオのベースとグラフィックはテトラさん、エンジニアリングは弊社がやっていて、いまはお互いに調整を行っている状況です。テトラさんでもUnityを使われていているので、基本は納品していただいた素材を弊社でプログラムにマージしていくというサイクルになります。そういった意味ではテトラさんはグラフィックメインの話で、弊社はエンジニアリングメインの話というところで切り分けられるのかなと思っています。

Unite 2017 Tokyoに来る方にメッセージをお願いします。

品部 4月25日にH2MDとC-FAをあわせて、「AXIP」というソフトウェアIPブランドを発表しました。ぜひ、ブースに来ていただいて、いろいろと試していただければと思います。また今後はムービー、サウンドに続いて、新たな製品も予定していますので、そちらもぜひご期待ください。