NVIDIAが考える「ゲームを伝えるコミュニティ」の構築

NVIDIA/デベロッパーテクノロジーアジア太平洋地域 シニアマネージャー

ブライアン ドゥダーシュ

アジア太平洋地域のデベロッパーテクノロジーグループを率いて、最先端技術と性能最適化技術を使いGeForce GPUを最大限に活用できるようにゲーム開発者を支援。NVIDIAにて2003年から世界中の開発者に共に活躍中。

NVIDIAとUnityの関わり

半導体メーカーであるNVIDIAさんとUnityは、どのような協業を行ってきたのか、まずはそこからお話をお伺いできればと思います。

ブライアンPCゲーム市場を重要視しているNVIDIAにとって、さまざまなプラットフォームでゲームを展開できるUnityは大事なゲームエンジンのひとつですし、ゲームデベロッパーさんの多くがUnityを使用して開発を進めている現在、NVIDIAの技術をUnityに統合しようと頑張っているところです。
その例が今回のセッションでお話しする予定の、スクリーンショットを撮影できるライブラリである「Ansel」、そして動画をシェアできる機能の「Highlights」ですね。いずれも、Unityのアセットストアからダウンロードできるようになっています。

最初に、Anselについてお伺いします。通常のスクリーンショット機能とはどこが異なるのでしょうか。

ブライアンAnselは2016年にリリースした、プリントスクリーンで撮れるスクリーンショットよりもすばらしいスクリーンショットを任意のタイミングで撮影できるライブラリです。現在は、Unityを利用している開発者がすぐに導入できるように、SDKを公開しています。
Anselでは通常のスクリーンショットだけではなく、360度のビジュアルキーや高解像度スクリーンショットの技術も入っています。

すでに世界中のデベロッパーがAnselを使える環境にあるわけですね。

ブライアンそうです。開発者が望めばどんなゲームでもAnselを使ってすばらしいスクリーンショットを撮影できるようになっています。
Unityのプラグインは去年の春に公開したので、ちょうど一年くらい前ですね。
去年のUnite 2017 TokyoでNVIDIAのVRコンテンツ開発者向けの支援ライブラリである、VRWorksの紹介をしましたのでご覧になった方もいるかもしれません。 【Unite 2017 Tokyo】NVIDIA Gameworks アップデートおよびAnselとVRWorksの紹介

NVIDIAのコミュニティサポート

NVIDIAさんはPCゲームのグラフィックスに関わることを全体的にサポートされているわけですね。

ブライアンはい。デベロッパーテクノロジーがPCのゲームエンジンは全てサポートしています。ですが、PCゲームに関して言えばUnityを使っているデベロッパーさんのサポートはまだ少ないですね。パフォーマンスの検証とか、グラフィックスのフィーチャーの追加や、描画性能の向上のアドバイスをしています。
最近Anselを導入したゲームは急速に増えて来ましたので、我々としてもUnityデベロッパーの皆さんに、ぜひこの技術を知ってもらいたいですね。

開発者にとって、Anselを導入するモチベーションは「プレイヤーさんにゲームの魅力的なスクリーンショットを撮ってもらうことで、新しいユーザーを獲得する」ということでしょうか?

ブライアンそうですね。私たちはPCゲームプレイヤーのコミュニティを作りたいと思っています。
「こんなことができた」、「このシーンがすばらしかった」とか、「これがすごく楽しかった」と話し合えるコミュニティを作りたい。そこでAnselを開発者さんに使っていただいて、いいスクリーンショットがプレイヤーさんの手によってたくさんアップロードされていく、それがコミュニティ作りのサポートになると考えています。 プレイヤーがゲームをプレイしている途中とか、モンスターを倒しているすばらしいアクションの途中にAnselを起動して、カメラの向きを変えたりフィルターをかけたりして、よいスクリーンショットを保存できる、そこがAnselの魅力です。 もともとAnselもHighlightsもコミュニティを作り、ソーシャルメディアでシェアするためのコンテンツを作成できるライブラリとして開発されています。

なぜNVIDIAさんが、ソーシャルメディアへの共有をするためのコミュニティ支援ツールを開発されているのでしょうか。

ブライアンNVIDIAはGeForceプラットフォームを1つのPCゲームプラットフォームと考えて、色々なフィーチャーを入れたいと思っています。
ゲームクオリティをあげて、シェアをしてもらい、コミュニティを活性化させる。そういったものを全て含めたものがGeForceプラットフォームですね。コンソールのハードウェアメーカーは、自分の会社のコンソールをサポートしているわけですが、PCゲームのほうはゲームハードとしてのPCをサポートする1つの会社があるわけではなく、それぞれバラバラにやっているのが現状です。
NVIDIAはマーケットシェアがありますのでプレイヤーが多い、だからこそコミュニティのサポートをするのは当然だと思っています。PCゲーマーもそういったサポートがあればうれしいだろうと思いまして、AnselとHighlightsを開発しました。

このゲームがこんなに綺麗なんだ、楽しいんだ、といった瞬間を人々にシェアするために、ということですね。

ブライアンはい、私たちはハイエンドだけではなく、ありとあらゆるPCゲーマーをサポートしたいんです。Highlightsは、プレイヤーから「プレイしているゲームをシェアしたい」という声を聞いて作ることになりました。
一方でAnselはマーケティング要素が強いのかもしれません。こちらの開発をスタートするきっかけは、もともとゲームの中の空間をアートととらえてスクリーンショットを撮るっていうコミュニティは昔からあったんですね。そういった人たちが、アーティストとしてもっと良いものを作ってシェアできるように、NVIDIAがAnselを開発することでサポートをしました。
もちろん、開発者の方にとって、ゲームに統合しやすくなければ使ってもらえないので、簡単なインターフェイス、プラグインにしています。

AnselとHighlightsについて

Anselを導入するためにはどうすればよいのでしょうか。

ブライアン簡単です。UnityのアセットストアからAnselをダウンロードして、インポートすると、1つのAnselのコンポーネントが入っています。そのコンポーネントをカメラにつなげるだけで、ほぼでき上がりです。その後、UIが表示されないようにするとか、ゲームをポーズするとか、細かい設定はありますが、おおまかにはそれだけです。
自分のコードを変更する部分に関しても、Anselを起動するときにUIを起動しないとか、ゲーム独自のいくつかの点を対応できたら統合は完成です。
統合にかかる時間はゲームによるところもありますが、ドキュメンテーションも入っていますので結構簡単にできるはずです。

Anselがスタートしてから現在にいたるまで、どのようなコミュニティが作られているのでしょうか。

ブライアンすでに500万枚以上と、とてもすごい数のスクリーンショットが撮影されています。
スクリーンショットをアップロードできるポータルサイト「SHOT WITH GEFORCE」も、とても盛り上がっていますね。 こちらでは、不定期ですがコンテストもやっていて、一番いいスクリーンショットの方にはGeForce関連商品をプレゼントするといったことも実施しています。

Highlightsについてお伺いしていきます。

ブライアンHighlightsは全くゲームと同じ動画を自動的にキャプチャーしておき、あとでアップロードできる機能です。Anselは撮影モードを起動して、高画質なスクリーンショットを保存するという機能なので、少し方向性が異なっています。
どうやったらゲームプレイ中に、ストレスなくすばらしいプレイを残せるか。試合やプレイがおわって一息ついてから、自動的にキャプチャーされた動画を共有できるようにしよう、それがHighlightsの開発コンセプトです。
プレイヤーは何もしなくてよく、デベロッパーがゲームの盛り上がるタイミングを設定すれば、プレイヤーがプレイしたときにそのシーンが自動的に動画に保存されます。
今までですと、「いいシーンが撮れそうだ」と思ってからマッチ中に撮影ボタンを押して試合が終わった後にビデオを確認するという手順が必要だったと思いますが、Highlightsでは撮影開始、終了が全て自動で行われます。あとはワンクリックで好きなSNSにシェアすることできます。カットやクリップも可能です。

これもUnityへの統合は比較的簡単なのでしょうか。

ブライアンプラグインがあります。アセットストアからダウンロードしてインポートするところまでは一緒ですが、統合の仕方は少し違って、開発者はカメラを入れるのではなくキャプチャーをするタイミングを設定してもらいます。
それぞれのゲームによって「盛り上がる場所」というのは異なりますよね。FPSなら敵を倒したり、RPGであれば珍しいアイテムを見つけた瞬間だったり。ゲームロジックにそういったシーンを統合してもらう必要があります。この「盛り上がる場所」についてはもちろん、デベロッパーが自由に設定できます。

去年のUnite 2017 Tokyoでも、Anselについてセッションがありましたが、それから1年で日本のUnity開発者さんのAnsel導入は進んでいますか?

ブライアン正直、あんまり進んでいない気がしますね。Anselに関しては、Unityで3Dのゲームがまだ少ないというのもあります。
今はコンソールゲームに対応したものがPCゲームにも移植されるという傾向があるので、全体的にハイエンドゲームといわれるものでUnityを使っているものがかなり少ない。
そういったハイエンドゲームじゃないとAnselで高品質なスクリーンショットをとりたい人は少ないかもしれませんね。 だからこそ、ハイエンドゲームを作っている会社であれば、Anselをぜひ使ってほしいです。
ただし、Highlightsのほうはビデオですし、どんなゲームにもある「盛り上がる場所」を撮影するためにHighlightsはとても使いやすいと思います。

Highlightsについてはいかがでしょうか。

ブライアンそうですね。Highlightsは、今年の3月のGDCで公式リリースされてから、すでに5億の動画が作られています。現時点で導入されている日本のデベロッパーさんからは満足のお声を頂いています。
Highlightsではゲームデザイナーさんが「自分のゲームはどこが面白いのか」を考えて決めるという作業が出てきます。

導入のタイミングはゲーム開発の最後のあたりがよい、ということでしょうか?

ブライアン最後の方が入れやすいですね。リリースする前の数ヶ月にテストをしてもらえればと思います。もちろん、発売後のアップデートでも入れられます。

Anselはある程度、3Dでしっかり作っているゲームに向いているというお話でしたが、Highlightsはどんなゲームにも向いているのでしょうか。

ブライアンそうです。ゲームって面白いものなので、友達にシェアしたいと思うような場所があるはず。ですから、どのゲームにも入れて欲しいですね。
GDCでパブリック版をリリースしたばかりなので、まだ導入事例は少ないですが、Uniteのセッションを聞いて、面白いと思ってもらえたら、導入してほしいですね。

Unite Tokyo 2018のセッションについて

Unite Tokyo 2018のセッションの受講対象者についてお聞かせください。

ブライアン技術的な話になりますので技術者のほうがいいと思います。情報を持ち帰って、デザイナーさんとお話をする、といった形が理想ですね。お話の内容はすごく簡単なので、デザイナーさんでも分かると思います。ただし、スプリクティングのプラグインのお話を少しします。
技術者なら誰でも、少し技術的なゲームデザイナーさんなら全然問題ないと思います。

それでは、来場を予定されている方へのメッセージをお願いします。

ブライアン少し長くなるかもしれません。これは個人の考え方ですが、PCでしか出来ないことがいくつかあります。Ansel、Highlightsのような支援の場をつくるのはコンソールでもスマートフォンでも難しいと思うんですね。コミュニティを作る機能はPCでは凄く作りやすい
全部のゲームがPCで発売されるべきだ、というわけではありませんが、PCでしかできないこともたくさんあります。そういうゲームであればPCをメインに考えてくださいというメッセージを伝えたいと思います。
弊社のマーケティング情報ではありますが、GeForceユーザーはおよそ2億人。コンソールよりもはるかに多い数です。世界最大のゲームコミュニティはPCゲームであり、グローバルスタンダードを目指すには、PCでゲームをぜひ作っていただきたいと思っています。

ブライアンPCゲームはゲームセッティングに選択肢が多いのも魅力の一つだと思います。自分のハードの中でもスピードが大事か、描画の綺麗さが大事かを調整できる。
Steamがこれだけ盛り上がってきているわけですから、今までコンソールでしか利用できなかったゲームがSteamでも展開されるようになってきて、世界に日本のゲームが進出していくっていうのがこれからの流れになるかと思います。
昨年の弊社のGeForceの売り上げが一昨年に比べて昨年の売り上げが+36%くらい。これはまだまだ伸びると思います。

PC向けにゲームを作るのは非常に大きな市場があり、そこを日本のデベロッパーさんもぜひ目指してほしい、ということですね。

ブライアンはい、PCゲームを作るのであればAnselとHighlightsの導入をぜひ考えて欲しいですね。コミュニティを作るということはマーケットの拡大にもつながります。ゲーマー同士の口コミは非常に重要ですから。NVIDIA HighlightsNVIDIA Ansel