サーバーを独自に作るから、通信処理も管理ツールも分析ツールも作らないといけない

Game Server Services 株式会社

丹羽 一智

Game Server Services 株式会社

代表取締役

ゲームメディアを専門に京都コンピュータ学院を卒業後株式会社セガに入社。携帯電話向けのゲーム開発 およびサーバ開発業務に従事。その後、任天堂株式会社にて ゲーム機本体のOS/SDKの設計・開発、ゲームサーバの設計・開発・運用業務に従事。約10年におよぶゲーム開発・大規模ゲームサーバ開発の経験を活かし、ゲームサーバ基盤 Game Server Services の開発・拡大を推進。

あらゆるサーバ機能を内包したゲーム開発向けBaaSを提供

Game Server Services(GS2)社についてご紹介ください。

GS2はオンラインゲーム開発に必要なサーバ側の機能を提供する会社です。世の中の汎用ゲームサーバはリアルタイム対戦を実現する方向のサービスが多いですが、GS2は対戦以外の要素にフォーカスしています。ログインの仕組みやアイテム管理、プレイヤー同士のチャットなど、アウトゲームサイクルやマネタイズに関する機能をSDKとして提供しています。

一般的に、ゲームサーバにはさまざまなコストが掛かります。サーバエンジニアが社内にいない場合は外注費用が発生しますし、どういった形の運用であれ保守等のランニングコストも発生します。また、通信対戦やアイテム、イベント管理など、サーバに関連する機能はワンオフで作るのが大変です。

GS2ではこうしたサーバ機能があらかじめ用意されているほか、初期費用・固定費用なしの従量課金のためコストメリットに優れています。また、サーバ機能だけでなく、オープンソースの管理ツール、解析ツールも提供しています。北米や欧州、シンガポール、日本にデータセンターがあり、グローバルで使っていただける体制になっているのも特徴です。

Game Server Service立ち上げの経緯と、丹羽様のご経歴を教えてください。

京都コンピュータ学院を卒業後、セガでiモード向けのアプリやゲーム開発に従事しました。その後は任天堂に転職し、ニンテンドー3DS®のOSとSDK開発、いわゆるインターネットに繋げるところの開発から、Switchの開発後期に到るまで7年間仕事をしていました。その後、汎用的なサーバ機能を数多くの方に提供するために独立をして、GS2自体は現在6年目となります。

任天堂から独立してまで会社を興したのはなぜでしょうか。

任天堂でも汎用的なゲームサーバを作って開発者の皆さんに提供する仕事を行っておりましたが、当然これは任天堂が提供するハードウェアで動作するタイトルでしか使えない枠組みです。任天堂のサーバに、他プラットフォームからアクセスするわけにはいきません。その一方で、当時はコンシューマだけでなくスマートフォン向けのゲームが非常に伸びている時代で、マルチプラットフォームのタイトルも増加傾向にありました。そういったタイトルを視野に入れて、「プラットフォームを問わず使える汎用的なサーバ機能を数多くの方に提供したい」という想いから、GS2を立ち上げるに至りました。

長期運営を目的としたアウトゲームのサイクル構築が可能

汎用ゲームサーバを提供する企業は国内外問わず多くありますが、GS2だからこそできる仕組みやサービスがあれば教えてください。

インゲームにおける遊びのスムーズさは重要ですが、現在はアウトゲームにおけるサイクルがなければ長くゲームを遊んでもらうことはできません。例えば、課金処理やアバターやパーツの保有、イベント管理など、長期運営に必要な機能はたくさんあります。これらの機能を丸ごと提供し、必要に応じて組み合わせて用いることができるのがGS2の特徴です。 「GS2なら、ゲーム周辺で使うであろうサーバ機能をあらかじめ全部ご用意しています」というのが明確な強みと言えます。

ゲーム開発を行う私達にとって、機能群がまとめて提供されることはどのようなメリットがありますか。

ゲーム開発において、「5分間遊んで楽しい」というだけではサービスになりません。特に運営型は長期間で面白さを実現する必要があります。つまり、一連のゲームサイクルは5分間を繰り返して楽しいだけでは足りないんです。マルチ対戦に向けたサーバの仕組みだけでは成り立たないのはこれが理由で、キャラクターの成長やアバター獲得、イベントスケジュールの管理など、アウトゲームのサイクルが絶対に必要です。

一方、アウトゲームに関する機能は、数が多い割にはクリエイティブを発揮する機会が少ない部分です。汎用的な仕組みがまとめて提供されていることによって、よりクリエイティブに作業に専念することができます。

サーバ機能のAPIだけでなく、管理ツールなどをオープンソースで提供する理由を教えてください。

ゲーム開発をしていると「テストのために、特定のアイテムが1万個欲しい」「ガチャ検証のために課金アイテムを無限にしておきたい」など、デバッグや開発のイテレーションの過程でサーバ側の数値を直接設定したい状況も多いと思います。

でも、一般的にはクライアント開発を行っているチームとサーバ側を担当するチームは別部署だったり、あるいは他企業だったり、離れた位置にいる場合も少なくありません。開発初期から管理ツールがしっかり用意されているプロジェクトであれば良いですが、そうでない場合はメールで「このアイテムを1万個付与してください」とお願いすることになります。これだと遅いですよね。

開発段階では開発ツールを用意していないプロジェクトも多いと思います。もちろん、割り切った設計の管理ツールがワンオフで用意されているケースもありますが…。

その点、GS2ではオープンソース化した管理ツールが用意されていますし、これを開発初期の段階から使うことができます。開発者が手元でサーバ機能の実験ができるのは利点ですね。サーバ機能をオーダーメイド的に作ると、他のタイトルで転用が難しかったり、せっかく作ったワークフローが役に立たなくなったり、運営ツールや分析ツールも1から作らなくてはいけません。当社の提供するツールはいずれもオープンソースなので、タイトル固有の情報を付加したい場合も、いわゆるお約束のコードを書く必要はなくなります。

機能面について、インディーゲームなど個人開発向けのメリットがあれば教えてください。

コストメリットや初期環境の構築の簡単さはもちろん、個人開発においてもメリットは多いと思います。サーバ関連はややこしい部分が多いですが、GS2は機能ごとにサンプルコードがありますので、コピー&ペーストである程度動くまでのプログラムの断片が出来上がります。例えばゲーム内UI(Textコンポーネント)にスタミナなどのパラメータの値を表示させるような実装など、ちょっとしたことをショートカットできるのは嬉しいのではないでしょうか。

サーバの自由化によってもたらされる恩恵

実際にGS2が用いられた開発事例を教えてください。

最近の事例として、『ダイの大冒険 クロスブレイド』や『ワッチャプリマジ!』、『アイカツプラネット!』などでご活用いただいています。サーバプログラムの開発をせずにオンライン対戦などの機能を実装するなど、クライアント開発だけでプロジェクトが完結する人的リソース面のメリットがあるとご評価をいただきました。本来なら専任を立てなければいけないようなサーバ機能の開発について、GS2を活用したことで圧倒的に速く開発が出来たということで、工数面でのアドバンテージもあったと聞いています。

プロジェクトの種類や規模に応じて活用方法も異なると思いますが、サンプルコードによる機能実装やAPIの利便性が評価されていると。

そうですね。また、バンダイナムコエンターテインメントが運営し、グッズ等を販売するECサイト『アソビストア』内のイベント『アソビストアEXPO2021』でもGS2は活用されています。このイベントには、ユーザーとのエンゲージメントを高めるための施策として、ログインボーナスやポイント制のアイテム獲得などの仕組みが数多く用意されています。本来バックエンド開発には1年程度の期間が掛かるところ、GS2ではあらかじめ複数の機能が用意されたことから、企画から開発まで実質2ヶ月で達成できたと聞いています。

学習期間を含めて約2ヶ月でローンチというのは驚きです。一方において、これまでサーバ専門で仕事をしてきたエンジニアに対して、GS2はどういった恩恵をもたらすのでしょうか。

従来、サーバエンジニアはネットワーク技術に長けた方が兼任するなど、業界的に専任者は人手不足という状況でした。GS2があることで、例えば「これまで培ったネットワークの知識を活かした対戦ロジックの構築」など、よりコンテンツに近い位置で仕事ができるようになると思っています。構築はGS2に任せて、クリエイティブな作業に割く時間が増えるのではないかと考えます。

大手開発会社は既にサーバ構築ノウハウを持っている、外注先との関係性があるなど、必ずしもGS2が必要ではないケースもあると思います。

会社の中でも、プロジェクトの規模はさまざまです。AAAタイトルを作るのであれば内製でゲームサーバを構築する必要があるかも知れませんが、”早くリリースしてユーザーの反応を見たいプロジェクト”でまでサーバを内製する必要はないと考えます。適材適所で使い分けてもらいたいと思います。

外製のツールを用いることに対しては、他のゲームエンジンやミドルウェアと同じく、開発者側のマインドチェンジに時間が掛かると思っています。私がUnityをはじめて知ったのは任天堂に在籍していた時期でしたが、当時は「本当にUnityでやりたいことが出来るのか?これを導入することで、別の問題が起こってしまうのでは?」と懐疑的に考えていました。ですが、今やUnityは世界中の素晴らしい作品で使われています。「新しいことをするとリスクを負うのではないか」という考え方もありますが、GS2は絶対に導入メリットがあると確信していますので、今回のSYNCでの講演などを通じて積極的にプロモーションをしていこうと考えています。

インディーゲームや中規模デベロッパーに向けた無料プランも展開

今回、無料プランも追加されたと聞いています。GS2を実際に使用する際に発生する費用について教えてください。

前提として、お試しで使っていただく場合は無料です。2万円分の無料枠内、API呼び出し回数にすると100万回分の通信に相当する部分はお支払いが発生しない仕組みになっており、開発時点で気軽にサーバ機能を試すことができるのがGSの特徴になります。

また、過去12か月間の売上高の合計が1,000万円未満の個人または法人に限定した無料プラン(Individual)を用意しています。こちらはUnityのPersonalプランに近いかたちというと伝わりやすいでしょうか。

事例としては、2022年1月22日にリリースしたR&SGamesの『ラムの泉とダンジョン』があります。本作はわずか2人で開発されたインディータイトルですが、ゲーム内にマネタイズの仕組みが入っており、ビジネスとして成り立っています。

マネタイズの仕組みはサーバ構築ありきですので、開発人数の限られるプロジェクトではGS2が重宝されそうですね。

私個人としては、インディータイトルだけでしっかり生計を立てられる道筋があった方が良いとは思っています。ただ、やはり売り切りや広告収入だけでは難しいのが現状で、そういった方に向けてGS2がマネタイズの一助になればと思っています。もちろん、必ずマネタイズしようという話ではなく、ひとつの選択肢として使いやすいサービスを展開していると考えていただければと思います。

たしかに、すべてのインディータイトルがマネタイズを意識しているわけではありません。あるいは、サーバ機能自体を良く知らないために検討にも至らないケースも多いと思います。

それもありますね。余談ですが、弊社はサーバ機能のドキュメントは全てWeb上に展開していますが、大手デベロッパーの方で「GS2のドキュメントがインスピレーションになった!」という開発者がいました。「こんなこともできるんだ」ということの参考にしてもらえるだけでも良いかと思います。初期費用は無料ですし、先ほども申し上げた通りAPI通信が100万回を超えなければ一切費用は発生しないので、興味があれば気軽に試していただきたいです。フォーラムもありますので、不明な点などがあればぜひご質問ください。

SYNC来場者に向けて

SYNC2022での講演内容について教えてください。

GS2を使えば、クライアント開発者のみでスマートフォン向けのゲームを開発可能になります。今回の講演ではGS2の概要だけでなく、どういった原理で開発フローが改善して、さらに実際の事例ではどうだったか、という部分までお伝えできればと思います。

最後に、参加者へ向けたメッセージをお願いいたします。

参加者の皆様に向けては、まずはGS2のサービス内容を知っていただきたいです。既に多くの企業で運用実績があり、本来はコストが掛かるサーバ構築を無料で使えるサービスであることを認知していただきたいです。

ゲームサーバはゲームを支えるためのもので、直接的にコンテンツを面白くするためのものではありません。しかし、サーバにまつわる業務を短縮することで、コンテンツを面白くすることに対してイテレーションを行う時間が確保できます。面白いゲームを作るために、ぜひGS2を活用して欲しいと思っています。少しでも興味を持たれた方は、ぜひ気軽に試していただけると嬉しいです。