HoloLensとMixed Realityデバイスの
それぞれの違いと活用方法

日本マイクロソフト株式会社/パートナー事業本部 テクニカルエバンジェリスト

高橋 忍

主にWindowsを中心としたクライアントサイドの開発技術を中心に、最先端技術の訴求活動を行う。現在は Windows 10 を中心にアプリケーション開発技術やクロスプラットフォーム開発、そしてWindows Holographic の開発についての担当として、各種セミナーや個別案件等で活動中。

HoloLensとWindows Mixed Reality

昨年のインタビューでは、HoloLens発売直後でした。それから、1年、Windows Mixed Realityデバイスの登場など、いろいろな動きがありました。高橋さんから見てMixed Reality、MRの世界はどのように変わってきたのでしょうか。

高橋昨年登壇したときとは少し定義が変わったかもしれないですが、Microsoft の中ではARとVRは同一線上にあるテクノロジーだと捉えています。
現実の物理的な情報が多くて、デジタル情報が少ないのがAR側で、デジタル情報を増やしていって、見える範囲が全て、デジタル情報で囲まれるとVRになる。つまり、デジタル情報とリアルの情報の比率の違いだけなんです。そしてこのARからVRまでの世界を全てカバーしているのが今のMRの定義になります。その中で、この世界を実現するデバイスとして、よりARに近いデジタルとしてはHoloLensがあり、VR側に近いデジタルとしては昨年末にリリースされたWindows Mixed Realityデバイスがあります。

高橋しかし、開発者から見ると、これらの開発テクノロジーは全く一緒です。Unityでつくっているときって、実はHoloLens向けのアプリとWindows Mixed Realityデバイス向けのアプリって、開発プロジェクトから見たら違いが全くありません。さらに言えば、他のVRのデバイス用のアプリ実装と比較しても基本的には、ほぼ共通ですね。(大きく違うというのは、デバイス固有の部分だけなんです)つまり、まだAR/VRの世界では後発のHoloLens や Windows Mixed Realityデバイスですが、日本国内にいる多くのUnityの開発者はすぐにでもMRのアプリを開発できる状況なのです。そういった皆さんの参入も今後ぜひ期待していきたいと思います。

HoloLensを取り巻くこの1年間の変化

Unite 2017 Tokyoから1年間、どういうふうにHoloLensを取り巻くシーンというのが変わってきたのかをお伺いできますか?

高橋まず、いろいろな業種で実際にHoloLensを使った事例発表するという機会が非常に増えました。特に感覚的には、建築業界が非常に多い印象です。「現場で使いたい」という声が非常に多くなっています。去年は野村不動産様の「マンションの建設予定地に行ってHoloLensをかけるとそこにマンションの出来上がりが見える」というものが話題になりました。
それから、製造業。社内の品質管理で使うとか、3DのCADデータを製造工程の中で可視化しながら、実際にチェックをするとかいうような使われ方があると聞いています。まだまだプロトタイプで検証をこれから、こういう技術が使えるか、という段階ではあるのですが、製造現場の働き方を変えられるデバイスとして、どう活用できるのかを検討するために、実際に現場で使ってみている、といった話はいろいろなところで聞かれています。

こういう使い方が出てきたか、みたいなケースはありましたか?

高橋そうですね……手術中に実際に使ってみる、というようなものがありました。これまでの事例でいくつかあったのは、手術前のブリーフィング用や、医学生向け教育用のアプリでしたが、実際の手術で患者さんのCTスキャンのデータから3Dモデルを起こしてリアルデータを確認しながらやれる事例は実際に見せていただきました。実際に現場の人が考えられたものを見ると、「なるほど、こういったところでリアルとデジタルの情報をうまく組み合わせるんだな」と目からウロコの思いが多々ありました。

手術での利用例

高橋 MRの世界では、3Dモデルそのものにとかく注目が集まりがちですが、例えば現場の人の環境をチェックするために使う、といった話を聞くと、いろいろな使い道があるんだなといつも驚かされています。

作業環境というのは、安全管理を?

高橋どちらかというと、長時間の作業時の姿勢などのチェックですね。Mixed Realityは作業の現場の方々のデジタル化を進められる技術だと思っています。
というのも、現場ではデジタル情報を活用できる場面が限られていました。設計作業まではデジタル化されてきているんですが、最後の製造とか現場になると、紙の指示書だったり、せいぜいタブレットで見る程度だったり。でも、現場にタブレットを支給されても、使うときはわざわざ作業用のグローブを外さないとだめとか、なかなか使いづらかったりするケースがあったり。
ですので、作業をしながらデジタル情報を使えるという面でも、このHoloLensはすごく期待されているんです。作業現場でのデジタル化が進めば、我々が考えていなかったようなたくさんの使い方が、これからもいっぱい出てくるのだろうなという期待はありますね。

日本と海外における開発の方向性

日本でも、HoloLensを使用されている方もかなりいらっしゃいますが、日本と海外で開発されるHoloLensコンテンツの違いなどはあるのでしょうか。

高橋まず、企業向けに関しては、それほど大きな違いはないと思っています。 一方で、日本の場合はやはり個人ユースで使われているケースが多く様々な種類のアプリが日本からストアに公開されています。いくつかのアプリは世界的にも評価が高いです。そういう意味では日本から発表されるアプリは、エンタメ、技術検証、キャラクターものなど、バリエーションの豊富さは、海外よりも強いかなという気はしています。

HoloLensアプリコンテスト受賞作 Zooo

「Unityを使っていらっしゃる方はぜひHoloLensで開発してほしい」とお話されていましたが、かなり増えている印象があります。

高橋この1年を通じてHoloLensの開発者は増えていますが、そのほぼ90%はUnityで開発されています。
そして、短期間で非常にハイクオリティのアプリが公開されて来たり、非常に技術レベルも高い方がHoloLensの開発情報を公開していただいているのは、既にUnityを使っていた方々が、HoloLensやWindows Mixed Realityデバイスに興味持っていただいて参入していただいたからですね。本当にうれしいです。

Microsoftさんとしてもコミュニティのサポートや、セミナーもやられていましたね。

高橋はい。特にHoloLensの販売開始当初は技術情報も限定的なこともあって定期的に行ってきました。 ようやく、基本的な情報は我々のウェブサイトを含めてだいぶ揃ってきたので、今は個別の案件のほうにシフトしていってます。コミュニティに関しては、我々は必要に応じて後方支援をする形で、基本的には自由に活動していただいたほうがいいかな、と思っています。
もちろん、コミュニティのメンバーの方とは常にコミュニケーションをとりながら、必要なものがあればフィードバックをいただいていますので、コミュニティの独立性はきちんと保ちつつ、ご支援できるようにいい距離を保てていると思います。企業の方もコミュニティに参加されながら、いろいろ情報とかヒントをもらうというケースもよく聞きます。

VRの世界とは、また違う形のコミュニティになっている印象があります。

高橋そうですね、もともとHoloLensはユーザーグループで始まって、本当に個人で買った人たちが「みんなで集まりたい」というところからあったので、技術好き、デバイス好きが集まった、そんな空気がずっと維持されている気はします。
ただ、商用の方、エンタープライズの方も実案件もだいぶ出てきている中で「商用のコミュニティ」の必要性も少しずつ聞かれるようになりました。そこで、この1月にHoloLensコミュニティのコアメンバーを中心に、IoT技術を中心としたコミュニティ「IoT共創ラボ」と組んで、Mixed Realityの分科会、つまり商用のMixed Realityのコミュニティを立ち上げました。その結果、ものすごい引き合わせが多くて、毎回盛況です。

Mixed Reality パートナープログラムの整備

Mixed Realityの世界もビジネスとしての展開がはじまりつつあるわけですね。

高橋はい、もう完全に始まっています。ビジネス側のもう一つ大きな動きがMixed Reality パートナープログラム(MRPP)で、いわゆる我々のMixed Realityの認定パートナーという制度ができあがって動き始めました。認定パートナーになった企業が(2018年4月現在で)今12社ほど日本にいます。
「ここの会社さんはMixed Reality のアプリケーションをつくれる実力があって、体制も整っています」という企業様に認定をさせてもらっています。実際、お客様とのお話の中で、「どこかMRのアプリを作れる企業を紹介してください」というケースがよくあります。(勿論、自社で開発される企業様も多いですが)そんな中で、認定パートナーができたことで、我々の認定パートナーを紹介できるようになったのはうれしい限りです。もちろん今も認定パートナーさんは日々増えてきていますし、ぜひ多くの企業様にも認定パートナーになっていただきたいと思っています。

公式Webサイト認定パートナー

認定パートナーになるためにはどのような手続きがあるのでしょうか。

高橋MRPP公式Webサイトから申し込んでいただきます。そこから、Microsoftの本社でトレーニングと最終審査があって、それをクリアする必要があります。ペーパーを書いて申し込んだらなるとかならないとかではなくて、つくられたアプリケーションをもとにMicrosoftの本社の審査が入って、そこから認定プロセスがはじまります。
勿論、認定を出すからには、ただアプリを作れるというだけではなくて、Microsoftが考える、Mixed Realityのコンセプトをきちんと理解された、質の高いアプリケーションを開発できる企業様でなければ、我々も紹介できなくなってしまいます。そういった意味ではかなり高いレベルの審査をやった上で認定になります。
Mixed Reality パートナープログラム(MRPP)公式Webサイト

他方で、コンテンツ開発会社を探しているという会社さんが「誰かできる人がいませんか」と探すためには、どうしたらよいのでしょうか。

高橋それについてはいろいろなケースがありますね。認定パートナーが公開されているので、認定パートナーさんに直接行かれるケースもありますし、例えばMicrosoftとお付き合いのある企業様であれば、担当営業を通じて、「どこか、そういった会社ない?」というのを聞かれて、我々からご紹介させていただくケースとかもけっこうあります。ただまだまだ少ないので、ぜひ多くの企業様に参画していただきたいです。
特にまた、僕個人としては、ゲーム開発に携わっていた企業の方に、エンタープライズ向けのMixed Realityの業務アプリの世界に来ていただきたいんです。なぜかというと、ゲームとかエンタメのアプリケーションをつくられた方というのは世界で一番すばらしいUXをつくれる方々なのです。要は誰でもマニュアルも使わずに直感的でわかりやすい、そしてユーザーを成長させることができるUXを作ることができるからです。そういった方々に、まずはMixed Reality デバイスから参画して、HoloLensの企業案件もやっていただきたいと思っています。

そういったケースはすでにはじまっているんでしょうか。

高橋 MRPPのパートナーの中に何社かはもともとエンタメゲームに強い会社さんがいらっしゃいますし、そういう意味では、もうはじまりつつあります。
MRPPの認定パートナー様を見ると、HoloLensにしかやっていないとか、完全に業務アプリしか今までやっていませんとかいう会社さんばかりではないんですね。アートの世界、ハイクオリティなグラフィックが主体で強い会社さんもいれば、建築系も含め、エンタープライズ案件も受託できるパートナー様もいらっしゃいます。

パートナー企業様によるHoloLensソリューション例

高橋そういった様々なパートナー様を認定パートナーとしてようやく創出することができたというのは、ある意味、去年1年の成果ですね。

Unite Tokyo 2018での講演内容

今回の講演はどのような内容を予定されていますか?

高橋まず、初めは、今、MRといっているのがどこまでのカバー範囲であって、2種類のデバイスがどういう位置づけなのかといったところからお話しさせていただく予定です。
今年は特にWindows Mixed Reality デバイス、つまりVRのデバイス用の開発についてデモを交えて詳しくご紹介しようかなと思っています。 基本的には、「Windows Mixed Realityのデバイスも、VIVEとOculusと一緒じゃないか」というのを認識してもらって「ここだけ押さえておけばいい」ところをきっちりお伝えして、今すぐにでも移植していいですよ、というようなお話をしたいですね。Windows 10にはストアもあります。他のストアで他のVRデバイス向けにアプリを公開されている方は、ぜひこちらにも、とお願いしたいです。

Windows Mixed Realityの対応作業はどのくらいの工数がかかるものなのでしょうか。

高橋つくり方と使っているプラグインとかにもよるんですけども、基本的には入力まわりとかハードウェアに近い部分だけ修正をかければ完了します。もちろん注意点もありその辺のお話もしたいですね。
複数のストアに出して、アプリを2種類、メンテしていくのは大変かもしれないんですけれども、Windows Mixed Realityデバイスは家電量販店で買えるようになってきて、Windows 10のPCがあればつなぐだけで使えるということで、これから市場が広がっていくという意味では、Steamでも売りながら、Windows Mixed RealityのMicrosoftストアのほうでも一緒に新しい販路としてうまく使っていただければいいかなというふうに期待しています。

今回の講演の対象受講者は開発をされる方、企画される方、デザインされる方……幅広い方が対象ということでしょうか。

高橋そうですね。このデバイスが、他のVRのデバイスと何が違うのか、どこまで一緒なのか、どこまでできるのかというのを見ていただきたいかなと思います。だから、あまり細かい開発のお話よりも、MRの技術や市場の全体のお話ができればと思います。
HoloLensとMixed Realityデバイスって、まったく別ものだと思われているケースが多かったりするんですけれども、ほぼ同じなので、そのときに、「どうやって違いを出すの?」とか「何で振り分けるの?」というのは、実際に開発の流れを見ていただくのが一番わかりやすいと思うので、その辺は実際にデモをしながら、それぞれのデバイスの特徴みたいなところを知っていただきたいなと考えています。