Vuforia Engineに商用無料プラン登場!強力な新機能も追加

PTCジャパン株式会社

多田 祥起

PTCジャパン株式会社

テクニカル・スペシャリスト

学生時代からバーチャルリアリティ分野の研究に携わり、大手日系企業でAR事業に従事。2021年にPTCジャパン入社。世界トップクラスのARソリューションVuforiaのテック・リードとして、AR/IoT製品のプリセールスエンジニアを担当している。

ARソリューション「Vuforia」を提供するPTCジャパン

PTCジャパンの会社の概要について教えてください。

PTCはアメリカのボストンに本社を置くソフトウェア会社で、世界で初めて3次元CADを商用化(※)した会社です。CAD技術を起点とし、長年にわたってPLMソリューションやIoT開発プラットフォーム、そしてARソリューションであるVuforiaといった製品群を幅広く提供してきました。
PTCジャパンは1992年に設立された日本法人で、PTCが提供するテクノロジーの国内への提供や技術支援等を行っています。
※Pro/ENGINEER。3D CAD/CAM/CAE ソフトウェアCreoの前身となるソフトウェアで、1987年にリリース。世界で初めて3次元CADを実用化した。

これまでのご経歴と現在の職務内容を教えてください。

私は学生時代からVR/AR領域において、触覚フィードバックに関する研究を行っていました。その後は日系企業でARサービス開発や技術検証に携わり、2021年からPTCジャパンでテクニカル・スペシャリストとして働いています。
今回お話させていただくVuforia(※)についても、仕様に関するご説明や、興味を持っていただいた方にデモをお見せするなど、技術営業という形で幅広く仕事をしていますし、ほかにもパートナー企業様へ向けたトレーニングやマーケティングイベント等にも関わっています。
※産業向けARソリューション群やAR開発用ソフトウェアを含む世界トップクラスのARソリューション。2015年にPTCが買収し、コンテンツ制作だけでなく産業用途での活用が進んでいる。

日本法人はテクニカルサポートや営業に特化しているのでしょうか。

日本法人では、営業・マーケティング・ユーザー企業様やパートナー企業様への技術支援・パートナー各社様と協力してのコンテンツ開発を行っています。
開発拠点を持つ本国ではR&Dチームの他にも5年、10年先の技術研究を行う部門(Reality Lab)もあり、そこでは幅広くAR研究が進められています。国内からの機能要望や細かいQ&Aは、本国としっかり連携しながら進めています。

PTCの製品群の中で、Vuforiaの位置付けを教えてください。個人的にはコンシューマ用途やエンターテインメント業界で広く使われてきたソリューションだと考えていましたが、PTCとしてはどのような用途を考えているのでしょうか。

Vuforiaは7年前にPTCの製品群に加わりました。ARはCADやIoT領域と相性がよく、近年では産業用途でも使っていただけるようになりました。
例えば工場の装置に作業工程を重ね合わせて表示したり、これまではモニターで確認するしかなかった工場内のさまざまなデータを現地で手軽に確認したり、情報と人間の距離を縮める用途での活用が広がっています。

パッケージ化された産業向けのVuforia

既に産業用途でも実用化が進んでいるとのことですが、エンジニアがいない場合や、そもそも開発に関する知見のない企業では、どのように導入を進めているのでしょうか。

既にVuforiaをご存知の方が想像しているのは、AR/VR開発のためのテクノロジーを備えた「Vuforia Engine」だと思います。一方、PTCではすぐに使用していただけるパッケージ化された製品もご用意しています。

例えば、「Vuforia Expert Capture」では、ベテランの方の作業風景をその人の目線でキャプチャし、それをブラウザベースのエディタで手順として簡単に編集可能なパッケージです。作業員の方は、ARで作業手順を表示しながら仕事をすることができます。

また、ノーコード/ローコードで必要なAR機能を作成・配信できる「Vuforia Studio」もあります。

既に産業界でも使用実績が多いのですね。CADデータをお持ちの企業も多いと思うので、ARと組み合わせて作業手順を作るのはニーズともマッチしていると思います。

そうですね。「Vuforia Instruct」は、「Vuforia Expert Capture」と同様に手順を表示することに特化したソリューションで、製品のCADモデルやLiDAR等で取得したモデルを起点として作業手順を作成し、作業の誘導線を作ることができます。

また、遠隔地とのコミュニケーションという意味では、ビデオ通話にAR情報を書き込むことができる「Vuforia Chalk」もあります。例えば、経験の浅い作業者が困った際に、経験の豊富な熟練者がオフィスなど離れた場所から現場にビデオ通話を繋ぎ、実際にビデオ通話の画面を見ながら情報を書き込んでいきます。位置の固定は三次元的に行っているので、カメラが移動しても書き込んだ情報は保持されます。

高度な認識精度とユニークな機能を持つAR開発ライブラリ「Vuforia Engine」

ここからは開発者向けに、Vuforia Engineについてお話いただきます。まずは概要を教えてください。

Vuforia EngineはAR開発用ライブラリで、画像認識や物体認識、あるいは空間認識などの技術を開発者の方に提供します。アセットとしてUnityにインポートするだけで、簡単にARアプリ開発を行っていただけます。iOS/Androidだけでなく、HoloLensやMagic Leapなどクロスプラットフォーム展開ができる点も特徴で、開発者はワールドワイドで100万人を超えています。

AR開発用ライブラリとして、Vuforiaの優位性はどこにあるのでしょうか。

ターゲットの認識方法と精度が優れています。Vuforiaが対象を認識する仕組みは、主にイメージターゲット、モデルターゲット、エリアターゲットがあります。

簡単なものから説明すると、イメージターゲットは画像を認識し、画像に対してARオブジェクトを表示します。モデルターゲットは3Dモデルを使用した、特定のアングルから見える形状・色による物体認識で、三次元的な現実の物体に対してARオブジェクトを表示することができます。モデル情報とカメラからの情報を照合して、この位置に対象のものがある、という認識をさせる仕組みです。

また、アドバンス・モデルターゲットという上位機能も2019年に登場しました。こちらも色と形状で識別する点は同じですが、標準のモデルターゲットと異なり360度どの向きからでも認識を行うことが可能です。向きに指定がない、つまり最初に認識させる際にアングル指定がないのが特徴になります。

モデルターゲット、イメージターゲットはAR技術として想像がし易いですが、エリアターゲットとはどういったものでしょうか?

空間をあらかじめスキャンし、そのデータを保持しておくことによって、空間内ならどこでもAR表示を行うことができるという仕組みです。例えばオフィスなどの空間全体をスキャンしておけば、特定位置にナビゲーションを仕込んだり、誘導線を表示したり、あらゆるAR表示が可能になります。

特定の空間にアンカーを置く手法もありますが、Vuforiaは空間自体をデータとして持ち、アンカーなしでAR表示を行えるのがユニークだと思います。これらはいずれも認識精度が高く、エリアターゲットの自己位置推定も非常にスピーディーです。

自動車からワインまで、産業分野でのVuforia Engine活用事例

Vuforia Engineが持つさまざまな機能を実用化する場合、どういったユースケースがあるのでしょうか。

Vuforia Engineを用いたUnity開発事例を2つご紹介します。1つ目はVisionaries 777 ltd.が開発した「Lykan Live Paint アプリケーション」です。モーターショー向けに、自動車の車体カラー変更などのカスタマイズ内容をAR表示するという内容で、セールスポイントなどの製品情報も実車に重ね合わせて表示することも可能です。

高精度なVuforiaのモデルターゲットを用いたことで、本当に車体のカラーが変わったかのようなユーザー体験を実現しています。実際の車体は1台で良いというコストメリットもありました。

参加者はどのようにARコンテンツを確認することができるのでしょうか。

こういったケースでは、あらかじめアプリがインストールされたデバイスを展示場所に置いておくスタイルが一般的ですが、お客様の端末にアプリをインストールしていただく運用も可能です。「Lykan Live Paint アプリケーション」に関しては、参加者にアプリを入れていただくことなく、その場に用意したデバイスで体験をいただける形となっていました。

モデルターゲット以外の事例も教えてください。

イメージターゲットの事例として「19 Crimes」をご紹介します。ワインのラベルに描かれた人物の画像にスマートフォンをかざすことで、ラベルの人物がそのワインに関するストーリーを語ってくれるという内容になります。ワインボトルは円柱型なので、より正確には円柱型の画像を認識する円柱ターゲットを用いて実装しています。お客様の”ワインを飲む”という体験をグレードアップできるものとして、最初は1ブランドでのスタートだったところが現在は9ブランドと拡大を続けています。

非常にユニークな使い方だと思います。これらのアイデアはクライアント由来のものか、開発側からの提案なのかを教えてください。

19 Crimesの場合はワインのブランドホルダー(TREASURY WINE ESTATES社)がアイデアを考えて、それを実現する最適なシステムとしてVuforiaを採用していただいたという経緯と聞いています。

ARはまだまだ発展の余地が大きく、私たちでさえ想像し得ない使い方をしている方も多くいらっしゃいます。皆さんにとって最適なソリューションとしてVuforiaを選択してもらえるよう、私たちも努力を続けております。

Vuforia Engineに商用無料プランが登場

Vuforia Engineを用いたUnity開発はドキュメントも多く、初学者でも始めやすい印象を持っています。開発後、実際にアプリケーションをロンチするにあたって、どういったタイミングで料金が発生するのでしょうか。

プランはベーシックとプレミアムプランの2種類になります。今回、商用でも無償で利用できるベーシックプランをご用意しました。ベーシックプランではイメージターゲットやVuMark、複数/円柱ターゲット、Ground Planeなどの機能が使用可能です。画像をベースにしたARであれば、ベーシックプランでローンチまで可能です。

プレミアムプランではモデルターゲットとエリアターゲットの商用利用が可能です。いずれもベーシックプランではプロトタイプ用途で使えますが、パブリックに公開できないため、これらの機能を用いる場合はプレミアムを選択していただきます。

また、開発ドキュメントに関する言及もありましたが、Vuforiaにはフォーラムやコミュニティが用意されています。プレミアムプランでは弊社がサポートを行いますが、ベーシックプランの場合はこういった場を活用していただくか、公式ドキュメント(英語)を参照していただければと思います。

SYNC来場者に向けて

今後ARはどのように発展していく、あるいは社会実装されていくと考えていますか?

私たちはソフトウェアの会社ですが、今現在ARを活用する際にボトルネックとなるのはデバイス面だと思います。誰もが気軽に手に取れるデバイスがあれば、既にあるユースケースが一気に広がっていくと考えています。

AR全体ではなくVuforiaに限った話をすると、本社の方針で開発ロードマップは非公開になります。これは、ユーザーの要望やフィードバックを踏まえて臨機応変、流動的にアップデートを続けていくという考えがあるからです。弊社として、ARは特に注力している分野ですので、今後ともユーザーの皆さまにとって有益な機能開発を続けていきます。

SYNC2022にはゲーム、非ゲームを問わず多くの方が来場されます。参加者の方へメッセージをお願いします。

Vuforiaに興味を持たれた方は、無料のベーシックプランでも基本機能を使っていただけますので、ぜひ気軽にお試しください。また、アドバンス・モデルターゲットやエリアターゲットなどをはじめとする強力な最新機能があることも併せて知っていただければと思います。

Unityに関連するイベントへの参加者はエンターテイメント業界の方が多いような印象がありますが、AR活用についてはエンターテイメント業界だけでなく産業利用も盛んです。目的は異なっていても、使われている技術や作り方の根幹は変わりません。産業分野にも目を向けていただき、あらゆる現場でVuforiaを活用していただければ嬉しいです。